田中慎樹メモ

ネット広告、ビジネスモデル、ベンチャー、経営、日常について

「コンサルティング会社の言うことを鵜呑みにしない」

いまは5月の下旬。12/1から年度を開始するはてなも半期が終わり振り返りのタイミングに入っています。何人かの社員に「コンサルティング会社で働いた経験のことをあまり聞いてないので教えて下さいよー」と言われたので、役に立つかどうか分かりませんがここに書くことにしました。幾つか書くかも。

コンサル会社と付き合う際のコツは、コンサル会社の言うことを鵜呑みにしないこと??

コンサル会社との付き合いはあまり簡単ではありません。その成果が情報という無形のものですから、高い金を払うことは誰でも躊躇しますし。そんな中、クライアント企業の社員が「うちはコンサル会社の言うことを鵜呑みにせず、彼らをうまく使えている」と胸を張るシーンに立ち会えると、良いことだなと思います。ただ、続けて彼らが「コンサル会社と付き合う際のコツは、コンサル会社の言うことを鵜呑みにしないことである」という逆の命題を主張することがあります。ウェブでも時々そういった記事を見かけますが、経験者としては微妙な気分になります。

なぜ鵜呑みにすべきでないと言われるのか。主な批判としては、「提示された解決の処方箋がその会社では実行できない絵空事でしかない」が良く挙げられるようです。確かに、コンサルタントはあくまで外部の人間ですし短期間で報告書を出さねばなりませんから、現場を完璧に理解することはできませんので、絵空事を報告してしまう可能性は常に潜んでいます。

実は、「解決策を答申しておしまい」というプロジェクトはあまりない

世の中いろいろなコンサルタントがいますので、コンサルティング・ファームと称する比較的大きいコンサル会社が上場企業に対して行う経営コンサルティング業務に限って言いますと(私はここの戦略部門に在籍していました)、そのような「絵空事」批判を受けるような事態はあまりないのではないかと感じています。そもそも、報告を受けたクライアントの社長が「ふむふむなるほどね」といって報告書を読んで机にしまい、代わりにお金を振り込んでくれるような悠長な世界じゃないですよ。「正しいことを言ってそうだけど、具体的にどうしていいか分からない」というような絵空事な解決策しかない報告だったら、多くの場合はお金払ってくれませんって。怒りますよ、クライアントの個別事情に合わせてコンサルティングしてくれてるはずなんだから。

つまり、そのような「経営コンサルティング」と呼ばれる分野では、最初から「経営課題の定義と解決策を社長に答申しておしまい」というプロジェクトは実は殆ど存在しないと思います。多くのプロジェクトの主眼は、定義した課題について解決策を社内の人と話し合い、具体化して、実行支援することにおかれています。課題を分析して解決策をまとめるプロセスに携わった人は、社外の人間であっても、多くのクライアント社員を巻き込んでその解決策を実行していく段階ではかなり役に立ちますので引き合いがあります。
実行支援とは、例えば営業の生産性を上げるプロジェクトで業績評価基準を変えて全国の支店に出かけて伝導して回るとか、調達コストを適正化するプロジェクトで取引先を色分けしてとるべき態度を決めヒアリングに臨む、などの業務ですね。こんな実行支援の領域は人手が必要であり、コンサル会社として踏み込んでいくことはリスクがあるのですが、ある程度大きな売上が確保できるので悪くない話なんですよ。プロジェクトに投入する人数をある程度確保できると、投入工数 × 工数単価の計算式に従って請求するフィーが上がっていきますから。
多くの経営コンサルティングプロジェクトは、解決策の実行フェーズで躓かないようにするため、上流の課題を洗い出す工程から現場のキーマンとなるような社員に参加して貰うようにしているはずです。

「鵜呑みにせず実行しなかった」理由を考えてみる

そこまで固めておいてプロジェクトで得た解決策を推進しなかったケースがあるとすると、その理由は、「アウトプットが、正論だけど実行できない絵空事だった」というよりは「実行体制をうまくとれなかった」という方が多くあります。「実行体制をうまくとれなかった」というのは、具体的には以下のどちらかだと思います。

1. プロジェクトで精査した結果、経営課題の内容がRFPでのスコープと違っており、解決の優先順位が違うと気づいた

このケースは意外と良くあります。ある意味、初期仮説の誤りに気づけたという意味では経営コンサルティングの醍醐味かも知れません。
卑近な例では、営業の生産性をもっと上げられないかと始まったプロジェクトで、解決策の1つに営業マンの情報武装化が必要じゃないかと思っててその手のシステム導入の実績あるコンサル会社を雇った。でも彼らの分析によると今後2〜3年は携帯電話で確認すればそこそこ成果が上がりそうだという結果が出た。で、システムの導入は見送り、みたいなものですね。

2. 発注者が及び腰になり、「現場で宜しく頑張って」と丸投げして逃げたり、実行のキーマンになるべき社員たちを掌握できなかった(社内ポリティクス、個人の事情.. )

これは難しいです。コンサルタントたちは、実行を進めるため、また勿論仕事を継続して受注するため、実行のキーマンたる社員たちの参加意欲を上げたり、実行体制を整備できるよう仕掛けていきます。ただ、あくまで発注して貰う側であって社員と比べて立場は強くないので、難易度は高いですよね。


もし、うちの会社*1で雇ったはずのコンサルの仕事が続いてないなあと思ったら、一度「RFPを書いた部門や役員が課題を見通せてなかったのかな?」とか、「発注した役員とプロジェクトメンバーがぎくしゃくしてない?」とかを考えてみても良いかも。勿論、「コンサルがアホやから。やっぱ言うことを鵜呑みにしたらあかん」というケースもありそうですけどね。

*1:はてなでは当然雇ってないですが