田中慎樹メモ

ネット広告、ビジネスモデル、ベンチャー、経営、日常について

情報誌ビジネスにおけるユーザー行動の変化

昨日言及した広告クラッター(広告混雑度)の進行に関連して。
広告クラッターが進んでいる、ということは、ユーザーの受け取る情報量が増えたがどう処理するか、その中でどう認知して貰えるか、という文脈で語られることが多いです。例えば、ヒットした書籍「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)」でも「ライバルが増えてモテなくなったことを受け入れ、相手にラブレターを受け取って貰うためにどうすべきか一生懸命考えよう」という趣旨で今後の広告を語っていました。
同時に、情報誌ビジネスにおいては、受け取って貰ってからの行動も大きな課題になり始めている記事を見たのでメモ。

「以前は十分吟味して心に決めた1社に応募していたが、今は多くのユーザーが気軽に応募する」

リクルートのインターネット関連部署、小林さんの講演。リクルートの情報誌ビジネスは紙とネットの売上比率がほぼ1:1になり、ユーザーの態度の違いが明らかになってきたとのこと。

6割のユーザーは1セッションで1件の応募だったが、4割は1セッションで平均5件に応募していた。小林氏は「これまでの情報誌時代の感覚では、転職は人生で重要な分岐点。十分吟味して心に決めた1社に応募すると考えていたが、多くのユーザーが気軽にエントリーしていることが分かった」という。

情報誌ビジネスは、街の店舗・中小企業から大企業まで、幅広い広告主が統一フォーマットで情報誌に広告を掲載。情報誌を見て問い合わせてきた人の数をカウントして、成果が良かったかどうかをレビューできる、という事業モデルです。例えばホットペッパー(レストラン等)では客単価を掛けたりすれば、広告費を回収できたかどうか簡単に計算できます。分かりやすい。
これをネットに移行したところ、1セッションで5件応募する人が4割も登場しているとのこと。つまり、広告主の情報を見つけやすくなり、マウスとキーボード操作で簡単に問い合わせできるようになったということでしょう。反響数が増えたということでネット版情報誌の価値が増しているといえます。

広告主も「変わらなきゃ」

ただ反面、1人が5社も掛け持ちするということは、広告主にとって、多くの問い合わせが来るようになったものの最終的に成約できる見込みの数はさほど増えない、ということを意味します。「ライトユーザーが多数やってきて、その気になってもらうのも大変なわりに、すぐ去っていかれちゃいちいち向き合っていられない」ということが起こりかねません。
明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)」風に言葉を換えると、このようなネット版情報誌ビジネスを行う企業に広告を出すことで、広告主がラブレターを渡せる可能性のある相手は増えたのですが、増えた相手の殆どは

  • 「移り気」で「クール」に「いろいろなところと比較する」ようになり、「賢く」なったユーザー達

であって、今まで通りの「心に決めた1社として連絡してきたユーザー」と同じような付合い方を求めても空振りをしてしまいます。このユーザー達との接点をどう構築して、どう関係深化していくようにするか、ということを、情報誌ビジネス企業と広告主は共同で考えていく必要がある*1と思いました。

*1:広告主は情報誌を使わないという選択肢もひとつです。ヘビーユーザー・ライトユーザーがどこからくるかを見極めて考えることも重要でしょう